自己破産

破産における資格制限とは? 資格制限の中身を具体的に解説

破産すると、資格制限が生じ、一定の職業については仕事をすることができなくなる場合があります。
ここでは、制限が生じる資格資格制限の具体的な中身について解説します。

資格制限の一覧(一例)

破産によって生じる資格制限には、次のようなものがあります。

対象 根拠条文
警備業 警備業法3条1号、10号
探偵業 探偵業の業務の適正化に関する法律3条1号、6号、7号
鉄道事業の許可 鉄道事業法6条3号、5号、6号
銀行等代理業の許可 信用金庫法85条の2第1項、89条5項、信用金庫法施行規則143条4号ロ、5号ニ
通関業の許可 通関業法6条2号、10号
酒類の製造免許、販売免許 酒税法10条10号
宅地建物取引業の免許 宅地建物取引業法5条1項1号、11〜13号
一般建設業の許可 建設業法8条1号、10〜12号
一般廃棄物処理業の許可 廃棄物の処理及び清掃に関する法律7条5項4号イ、チ〜ヌ、10項4号
一般廃棄物処理施設の許可 廃棄物の処理及び清掃に関する法律8条の2第1項4号
産業廃棄物処理業の許可 廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条5項2号イ、ハ〜ホ、10項2号
産業廃棄物処理施設の許可 廃棄物の処理及び清掃に関する法律15条の2第1項4号
解体業、粉砕業の許可 使用済自動車の再資源化等に関する法律62条1項2号イ、ト、チ、ヌ、69条1項2号
質屋営業の許可 質屋営業法3条1項6号、9号イ、10号
古物商および古物市場主の許可 古物営業法4条1号、8号、10号
風俗営業の許可 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律4条1項1号、10号、11号
有料職業紹介事業の許可 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律4条1項1号、10号、11号
一般労働者派遣事業の許可 職業安定法32条4号、10号、11号
港湾労働者派遣事業の許可 港湾労働法13条3号、5号、6号
船員派遣事業の許可 船員職業安定法56条4号、6号、7号
建設業務労働者就業機会確保事業の許可 建設労働者の雇用の改善等に関する方法32条3号、5号、6号
二種病原体等の所持の許可 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律56条の7第1号、7〜9号
骨髄・末梢血幹細胞提供あっせん事業等の許可 移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律18条5号イ、ニ、31条4号イ、ニ
認定情報提供機関の認定 中小企業支援法13条1項、中小企業支援法第十三条第一項に規定する情報提供業務を行う者の認定に関する省令2条1項3号ロ、ト
認定経営革新等支援機関等の認定 中小企業等経営強化法31条1号、27条4号、7号、37条、42条
自動車運転代行業の認定 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律3条1号、6号、9号
民間紛争解決手続業務の認証 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律7条3号、9号、10号
指定確認検査機関の指定 建築基準法77条の19第2号、9号、10号
指定空港機能施設事業者の指定 空港法15条2項2号、4号
地方管理空港における空港機能施設事業者の指定 空港法23条、空港法施行令7条2号ロ、ニ

(出典:「条解破産法〔第3版〕」1956頁以下より抜粋)

資格制限の対象期間(→「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」)

結論からいうと、通常、資格制限が生じるのは、破産手続開始の決定が出てから免責許可の決定が確定するまでの間です
順調に破産手続が進んだ場合、破産手続開始の決定から免責許可の決定の確定まではおおむね4か月程度です。

法律上は、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」という文言で、資格の制限を受ける対象期間が表現されています。
この文言には、破産手続開始の決定を受けた、復権を得ないという二つの要素が含まれており、両方の要素を満たす間、資格の制限を受けることになります。

以下、この二つの要素について解説します。

破産手続開始の決定を受けた

資格制限が生じるのは、破産手続開始の決定を受けた時点からです。

そのため、弁護士に自己破産を依頼した場合であっても、自己破産の申立てを裁判所にする前は、資格制限は生じません
また、自己破産の申立てを裁判所にした後であっても、破産手続開始の決定がなされる前は、資格制限は生じません

復権を得ない

資格制限は、復権を得ない間、続きます。
言い換えると、復権を得ることで、資格制限はなくなります

復権とは

復権とは、破産手続開始の決定に伴って各種の法律でなされた資格や権利の制限が解除され、本来の法的地位が回復することを意味します。

復権する方法はいくつかありますが、代表的なのは免責許可の決定が確定したことによるものです(破産法255条1項1号)。

破産法
第二百五十五条 破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
一 免責許可の決定が確定したとき
二 第二百十八条第一項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
三 再生計画認可の決定が確定したとき。
四 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
2 前項の規定による復権の効果は、人の資格に関する法令の定めるところによる。
……〔省略〕

免責許可の決定が確定する時期

免責許可の決定が確定するのは、債権者から不服申立てがされることなく、官報に免責許可の決定が掲載された日の翌日から2週間が経過したときです(破産法9条後段)。

破産法9条後段は、債権者が免責許可の決定に対して不服申立てをすることができる期間を、「公告が効力を生じた日から起算して二週間」と定めており、この期間が経過することで免責許可の決定が確定します。

免責許可の決定は、通常、官報に掲載する方法で公告がされる(破産法10条1項)ため、公告が効力を生じるのは、官報に掲載があった日の翌日です(破産法10条2項)。

実際には、免責許可の決定日からおおむね2週間程度で官報に掲載されるため、免責許可の決定が出てからおおむね1か月程度(官報に掲載されるまでの2週間+官報に掲載されてからの2週間)で確定するのが通常です。

破産法
(不服申立て)
第九条 破産手続等に関する裁判につき利害関係を有する者は、この法律に特別の定めがある場合に限り、当該裁判に対し即時抗告をすることができる。その期間は、裁判の公告があった場合には、その公告が効力を生じた日から起算して二週間とする
(公告等)
第十条 この法律の規定による公告は、官報に掲載してする
2 公告は、掲載があった日の翌日に、その効力を生ずる
3 この法律の規定により送達をしなければならない場合には、公告をもって、これに代えることができる。ただし、この法律の規定により公告及び送達をしなければならない場合は、この限りでない。
4 この法律の規定により裁判の公告がされたときは、一切の関係人に対して当該裁判の告知があったものとみなす。
5 前二項の規定は、この法律に特別の定めがある場合には、適用しない。

なお、債権者に個別に免責許可の決定が通知される場合もありますが、この場合も一律に、官報に免責許可の決定が掲載された日を基準として、免責許可の決定が確定します(最決平成12年7月26日民集第54巻6号1981頁)。

最決平成12年7月26日民集第54巻6号1981頁
免責決定が公告された場合における即時抗告期間は、破産法上公告が必要的とされている決定についての即時抗告期間と同様に、公告のあった日より起算して二週間であり、このことは、免責決定の送達を受けた破産債権者についても、異なるところはないものと解するのが相当である。

資格ごとの資格制限の具体的な中身

資格制限がどのような事項に影響するのか、破産について申告義務があるかどうかは、法律によって異なります
ここでは、主要な資格をいくつか取り上げて解説します。

宅地建物取引業者および宅地建物取引士(→資格取得時・取得後に制限あり、申告義務あり)

資格取得時の制限

宅地建物取引業者の場合

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は、宅地建物取引業者の免許を受けることができません(宅地建物取引業法5条1項1号)。

宅地建物取引業法
(免許の基準)
第五条 国土交通大臣又は都道府県知事は、第三条第一項の免許を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合又は免許申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けている場合においては、免許をしてはならない
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
……〔省略〕

宅地建物取引士の場合

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は、宅地建物取引士の登録を受けることができません(宅地建物取引業18条1項2号)。

宅地建物取引業法
(宅地建物取引士の登録)
第十八条 試験に合格した者で、宅地若しくは建物の取引に関し国土交通省令で定める期間以上の実務の経験を有するもの又は国土交通大臣がその実務の経験を有するものと同等以上の能力を有すると認めたものは、国土交通省令の定めるところにより、当該試験を行つた都道府県知事の登録を受けることができる。ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、この限りでない
……〔省略〕
二 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
……〔省略〕

資格取得後の制限

宅地建物取引業者の場合

宅地建物取引業者が破産すると、破産管財人が廃業の届出をしなければなりません(宅地建物取引業法11条1項3号)。
そして、破産管財人から廃業の届出がされると、届出がされた時点で宅地建物取引業者の免許の効力が失われます(宅地建物取引業法11条2項)。

宅地建物取引業法
(廃業等の届出)
第十一条 宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当することとなつた場合においては当該各号に掲げる者は、その日(第一号の場合にあつては、その事実を知つた日)から三十日以内に、その旨をその免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない
……〔省略〕
三 宅地建物取引業者について破産手続開始の決定があつた場合 その破産管財人
……〔省略〕
2 前項第三号から第五号までの規定により届出があつたときは、第三条第一項の免許は、その効力を失う

宅地建物取引士の場合

宅地建物取引士の登録を受けた後に「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当するようになった場合、その旨を届け出なければなりません(宅地建物取引業法21条2号)。

宅地建物取引業法
(死亡等の届出)
第二十一条 第十八条第一項の登録を受けている者が次の各号のいずれかに該当することとなつた場合においては、当該各号に定める者は、その日(第一号の場合にあつては、その事実を知つた日)から三十日以内に、その旨を当該登録をしている都道府県知事に届け出なければならない。
……〔省略〕
二 第十八条第一項第一号から第八号までのいずれかに該当するに至つた場合 本人
……〔省略〕

そして、上記の届出をすると、宅地建物取引士の登録が消除されます(宅地建物取引業者22条2号)。

宅地建物取引業法
(申請等に基づく登録の消除)
第二十二条 都道府県知事は、次の各号の一に掲げる場合には、第十八条第一項の登録を消除しなければならない
……〔省略〕
二 前条の規定による届出があつたとき
……〔省略〕

警備業者および警備員(→資格取得時・取得後の制限あり、警備業者は申告義務なし、警備員は申告義務あり)

警備業者は警備会社、警備員は警備会社の従業員のことです。

資格取得時の制限

警備業者の場合

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は警備業を営むことが禁止されており(警備業法3条)、警備業を営もうとする者は、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当すると公安委員会の認定を受けることができません(警備業法4条、5条2項)。

警備業法
(警備業の要件)
第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
……〔省略〕
(認定)
第四条 警備業を営もうとする者は、前条各号のいずれにも該当しないことについて、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の認定を受けなければならない
(認定手続及び認定証)
第五条 前条の認定を受けようとする者は、その主たる営業所の所在地を管轄する公安委員会に、次の事項を記載した認定申請書を提出しなければならない。この場合において、当該認定申請書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
……〔省略〕
2 公安委員会は、認定申請書を提出した者が第三条各号のいずれにも該当しないと認定したときは、その者に対し、その旨を通知するとともに、速やかに認定証を交付しなければならない

警備員の場合

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は警備員となることが禁止されています(警備業法14条1項)。

警備業者(警備会社)は、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」を警備業務に従事させることが禁止されている(警備業法14条2項)ため、警備員となる従業員を採用する際、通常、身分証明書を提出させるなどして就職希望者が「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当しないかどうかを確認します。
そのため、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は、警備業者(警備会社)に就職して警備員となることは、事実上も困難であるといえます。

警備業法
(警備員の制限)
第十四条 十八歳未満の者又は第三条第一号から第七号までのいずれかに該当する者は、警備員となつてはならない。
2 警備業者は、前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。

資格取得後の制限

警備業者の場合

警備業者は、認定を受けた後に「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当すると、認定を取り消されたり(警備業法8条1項2号)、営業停止を命じられたりする(警備業法49条2項3号)可能性があります(必ず認定を取り消されたり、営業停止を命じられたりするわけではありません。)

警備業法
(認定の取消し)
第八条 公安委員会は、第四条の認定を受けた者について、次の各号に掲げるいずれかの事実が判明したときは、その認定を取り消すことができる
……〔省略〕
二 第三条各号(第九号を除く。)に掲げる者のいずれかに該当していること
……〔省略〕

警備業法
(営業の停止等)
第四十九条 公安委員会は、警備業者又はその警備員が、この法律、この法律に基づく命令若しくは第十七条第一項の規定に基づく都道府県公安委員会規則の規定に違反し、若しくは警備業務に関し他の法令の規定に違反した場合において、警備業務の適正な実施が著しく害されるおそれがあると認められるとき、又は警備業者が前条の規定による指示に違反したときは、当該警備業者に対し、六月以内の期間を定めて当該公安委員会の管轄区域内における警備業務に係る営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
2 公安委員会は、次の各号のいずれかに該当する者があるときは、その者に対し、営業の廃止を命ずることができる
一 第五条第三項又は第七条第三項の規定による通知を受けて警備業を営んでいる者
二 第八条の規定により認定を取り消されて警備業を営んでいる者
三 前二号に掲げる者のほか、第三条各号(第九号を除く。)のいずれかに該当する者で警備業を営んでいるもの(第四条の認定を受けている者を除く。)

なお、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当することを申告する義務については、法律上、直接規定されていません。

警備員の場合

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は警備員となることが禁止されている(警備業法14条1項)ため、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当するようになった時点で、警備員として警備業務に従事することができなくなります

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」であることを申告する義務については、法律上、直接規定されていませんが、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」であることを隠したまま警備業務に従事した場合、警備業者(勤務先の警備会社)から懲戒処分を受けるおそれがあります。
そのため、警備員は、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」であることを勤務先に申告する義務が実質的にあるといえます。

保険募集人(→資格取得時・取得後の制限あり、法人は申告義務あり、自然人は申告義務なし)

資格取得時の制限

「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は、保険募集人の登録を受けることができません(保険業法279条1項1号)。

保険業法
(登録の拒否)
第二百七十九条 内閣総理大臣は、登録申請者が次の各号のいずれかに該当するとき、又は登録申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、その登録を拒否しなければならない
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外国の法令上これと同様に取り扱われている者
……〔省略〕

資格取得後の制限

保険募集人が登録後に「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当するようになった場合、登録が取り消されたり、業務の停止を命じられたりする可能性があります(保険業法307条1項1号、必ず登録が取り消されたり、業務の停止が命じられたりするわけではありません。)。

保険業法
(登録の取消し等)
第三百七条 内閣総理大臣は、特定保険募集人又は保険仲立人が次の各号のいずれかに該当するときは、第二百七十六条若しくは第二百八十六条の登録を取り消し、又は六月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる
一 特定保険募集人が第二百七十九条第一項第一号から第三号まで、第四号(この法律に相当する外国の法令の規定に係る部分に限る。)、第五号、第七号、第八号(同項第六号に係る部分を除く。)、第九号(同項第六号に係る部分を除く。)、第十号若しくは第十一号のいずれかに該当することとなったとき、又は保険仲立人が第二百八十九条第一項第一号から第三号まで、第四号(この法律に相当する外国の法令の規定に係る部分に限る。)、第五号、第七号、第八号(同項第六号に係る部分を除く。)、第九号(同項第六号に係る部分を除く。)若しくは第十号のいずれかに該当することとなったとき
……〔省略〕

なお、法人の場合には、破産手続開始の決定があったときには破産管財人がその旨を届け出なければなりません(保険業法280条1項4号)が、法人でない場合には、登録後に「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」に該当するようになったとしても、届出の義務はありません

保険業法
(変更等の届出等)
第二百八十条 特定保険募集人が次の各号のいずれかに該当することとなったときは、当該各号に定める者は、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない
……〔省略〕
四 特定保険募集人である法人について破産手続開始の決定があったとき その破産管財人
……〔省略〕

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弁護士 斎藤大貴
札幌弁護士会所属の弁護士です。債務整理と債権回収を中心に、さまざまなご依頼をお受けしています。